Tadashi Hara
1967年 八戸市生まれ。
趣味 : 路面電車。市内循環バス。新幹線。F1。世界ラリー選手権。水草の栽培。流星群。
花瓶に生けた花の命は短くて、これを克明に観察しながらかこうとしても、つぼみはすぐ開花し、そして瞬く間に枯れていきます。そもそも花束などというものは複雑すぎて、たとえ時の流れが止まったとしても、私の力では、まともに描写できません。だからあまり真剣に観察せずに、「だいたいこんなもんだろう」ぐらいの感覚で制作しています。ろくに観察もせずにかいているのだから、いっそのこと見ないでかけばいいような気もしますが・・・
しかし手元に花がないとなんだか楽しくないし、部屋に花があることの潤いを感じて、花の絵をかくと気分がのるものです。それで私は、花の絵をかくために、けっこうまめに花屋に足を運んでいます。
ある日一人で、初めて行く花屋に入り、5分ほどあれこれ迷った末に、バラを5本ほど選び店員さんに渡しました。年老いた女性の店員は私に向かい「あなた花の絵かくの?」と言ったのです。(何でわかるの? あっ しまった!服に絵の具が付いていたか)と思い自分で見える範囲をチェックしましたが付いてません。すると彼女続けて曰く
「絵をかく人は花の一つ一つをじっと観察して選ぶからわかるのよ。」
さすがにベテランの花屋さん。味わいのある洞察力でした。そして自分と同じことをしている人が他にもいることを実感しホッとしました。しかしですねー、その店員こそ私をじっと観察していたと思うと、あまりいい気分ではありませんでした。
家に帰りこのことを妻に話すと「おじさんが一人で花なんか買いに行くから変に思われるのよ」と笑われました。それ以来花を買うときはできる限り妻と一緒に行くようにしています。二人で花を選ぶのは実に楽しいものです。
友がみなわれよりえらく見ゆる日よ
花を買ひ来て
妻としたしむ
(石川啄木)
気がついたらトルコ桔梗ばかりかいていました。おかげで微妙な品種の違いまでわかるようになってきました。ずいぶん昔、まだその花の名を知らなかったころ「トルコ桔梗」というタイトルのついた花の絵を見ました。作者の名前はおろか、どこで見たかも覚えていません。その作品自体に強い印象は残りませんでしたが、なぜか花の名前だけが記憶に残ってしまいました。
それから二・三か月が過ぎ、その絵がどんなだったかほとんど忘れてしまったころ、花屋の片隅で偶然本物のトルコ桔梗を見つけました。花びらがスクリューのようにねじれたつぼみと、その面影を残した5分咲きの花の優雅な形に、すっかり魅せられました。そして自分も花の絵をかくならこの花をかいてみたいと思ったものです。
冬の風景を好んでかいてます。冬は、樹木の中で一番美しい部分である枝がしっかりと見えます。春になるとその枝が葉で隠されてしまい残念。冬の山や野原はとても色彩が豊かです。寒色と暖色が溶け合ってとても柔らかく微妙な色合いに見えます。夏の緑一色のモノトーン風景は苦手です。そして私は暑さに弱いので真夏は風景を観賞する余裕はあまりないようです。
※文中の短歌は石川啄木歌集「一握の砂」から引用させていただきました。横書きで申し訳けありません。